保護

日本ウミガメ協議会

-Sea Turtle Association of Japan-

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更新日 2017-02-24 | 作成日 2009-04-02

保護

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保護という言葉は…。

ウミガメの保護というのは具体性のない言葉です。何が彼らの保護につながるのか良く分からないからです。例えば、かつて日本各地で子ガメの放流会が行われていました。しかし、本来生まれたばかりの子ガメは夜に海に帰るのです。孵化後時間をおいて元気のなくなった子ガメを昼間放して、それが保護でしょうか?また、発展途上国では、今でもウミガメの肉や卵を食料として用いている人達がいます。
tamago1.jpg露店で販売されるウミガメの卵 彼らに食べるなと言い批判することは簡単ですが、それではとても保護にはつながりません。なぜなら、彼らにとって「ウミガメの肉や卵を食べる」ということは、昔からの生活の一部であり、それを、先進国の人間どうしで「ウミガメやその卵を採ってはならない」と条約を結んだところで、彼らにとってはまったくカヤの外の話なのです。彼らの生活は何も変わることはないでしょうし、ウミガメは、依然として捕獲されるでしょう。


kogame_tsuriito.jpg捕獲されたアオウミガメ ウミガメは守っても、ウミガメと共に生きてきた人々の生活が守られていなければ、保護とはいえないのではないでしょうか。人とウミガメが共存していくことのできる、最善の方法がわかるまで、ウミガメの場合、まだまだ保護という言葉を安易に口にすることは出来ないと考えています。


ウミガメの保護は難しいと言いました。 しかし、地域に眼を移すとそれは少し異なってきます。地域というミクロの眼でみると、
ある場所では移入されたイタチによって卵が食べられてしまう
産卵場の近くの定置網で多くのカメが死んでしまう
砂浜から砂が減り産卵できなくなってしまう・・・
など、より具体的な問題が生じています。こういった具体的な問題の場合、対策を立てることで、問題の解消もしくは軽減が図れるでしょう。私達はそのような事例に対しては、現段階で最良の対策を提言したいと考えていますし、その能力を獲得するために精進したいと考えています。

カメにとっての脅威

ウミガメたちの生存と種の存続にとっての脅威としては、以下のような問題が挙げられます。

1.海洋汚染

人類の産業活動によって生産されたダイオキシンなどの塩素系化合物や、水銀、カドミウム、砒素などの重金属、放射性物質、環境ホルモンなどが、ウミガメの生理、行動、生殖などに与える影響が心配されています。近年、発展の著しい中国を中心とする東アジア諸国から排出される汚染物質の環境に対する影響を、東シナ海を回遊するウミガメを使ってモニタリングしようとする試みが進められています。
kogame_tsuriito.jpg釣り糸に絡まった子ガメtaimai_net.jpg魚網に絡まったタイマイsorara_inaiyo.jpg消化管内容物にあったプラスチック


また、ウミガメがゴミを餌と間違えて飲み込み、多くは排泄されるのですが、希に消化管に詰まらせて死亡することがあります。また、砂浜に打ち上げられたゴミは、産卵や孵化した子ガメの帰海を妨げることもあります。産卵シーズンには、地元住民の方々や行政担当者によって、海岸清掃が繰り返されるのですが、ゴミは次から次へと流れ着きます。それらのゴミの大半は近隣諸国から排出されたものであり、海洋のゴミは国際問題となっていて、解決を困難にしています。

2.砂浜の消失や荒廃

tetra_umigame.jpg消波ブロックに落ちたアカウミガメkamenitottenokyoui2sunahama_HP.jpgウミガメにとって、産卵場である砂浜は種を存続していく上で重要であることは言うまでもありません。しかしその砂浜は、埋め立てや護岸工事などで次々と失われ、消失を免れた砂浜にも人為的な改変が加えられて、原始の姿をとどめる自然海岸はもはや貴重となってしまいました。各地のウミガメの産卵場は、砂の減少や周辺の喧噪、光害(→光害)などによる環境の荒廃のような様々な問題を抱えています。→LinkIcon調査・研究「砂浜における植生の重要性に関する研究」へ


・光害
kamenittenokyoui2kuogai_HP.jpg夜(砂浜後背にある外灯)motoroad_light.jpg海に光が漏れない照明の設計産卵場の周辺から届く光による、ウミガメの産卵・上陸行動や孵化・脱出後の子ガメの行動を阻害する影響として、産卵・上陸行動の中止や子ガメの迷走(海とは違う方向へ向かう)などが知られています。ウミガメは、青い光(短波長)によく反応し、赤い光(長波長)には鈍感であるといわれています。海岸近くの街灯などに低圧ナトリウム灯を用いることによって、ウミガメに対する影響を軽減することができ、各地で採用されるようになっています。
参考:「Sea Turtle and Lighting」B. E. Witherington and R. E. Martin, 1996

3.漁業

konkaku2.jpg漁師に助けられるウミガメウミガメの個体数が減少した原因のひとつとして、外洋でのマグロ延縄漁や流し網漁などによる混獲にあったことが世界的に認識されており、漁法や操業海域の規制により成果が現れはじめています。沿岸でも様々な漁法によってウミガメは混獲されていますが、ほとんどは生きたまま放流されています。しかし、底引き網や中層定置網、刺し網などで混獲されて死亡している個体も少なくないと考えられていますが、その情報は少なく、危険な漁法と操業海域、操業時期などを特定することが急務となっています。また、底引き網などによる漁場の環境の荒廃と水産資源の枯渇は、ウミガメにとっては餌生物の減少としてその影響が危惧されています。

4.卵や肉の食用

地方においては、ウミガメの卵や肉は貴重な蛋白源として食用にされてきました。しかし、現代人の食生活の変化に伴いその食文化は多くが失われており、ウミガメにとってはもはや大きな脅威ではなくなっています。しかし、科学的根拠のない滋養や効能が宣伝されて珍重され、都市部において高値で流通している現状があるのも事実です。

5.卵の食害

ウミガメの卵は、タヌキやキツネ、ヘビなどに食害されることが知られていますが、これら野生動物による食害は、太古の昔から続いてきたことであり、ウミガメを絶滅に追いやる心配は小さいと考えています。しかし、野犬や座間味島で知られる移入動物であるイタチによる食害などの被害は深刻であり、その対策に苦慮しているところです。

6.病気

fibro_aoumigame.jpgフィブロパピロマ疾患ウミガメの病気についてはあまり知られておらず、研究も進んでいないのが実状です。海外ではフィブロパピロマというウイルス性の腫瘍が知られていましたが、最近日本でも数個体の発症が確認され、今後の流行が心配されるところです。参考→ウミガメの生物学病気

7.海上での事故

沿岸の海上交通量はどんどん増えていて、特に内湾や港湾の近く、海峡部などでは、ウミガメが往来する船舶との事故に遭遇する確率が高くなっています。事故が直接の死亡原因かどうかは断定できませんが、漂着または漂流死体には、衝突の時にできたとみられる傷跡や、スクリューに巻き込まれたとみられる体の一部の欠損などが、認められることがあります。

8.誤った自然保護(卵の移植・人工孵化・放流会)

kogame1.jpgこれまで、ウミガメの保護や教育目的を謳った卵の移植と人工孵化、子ガメの放流会が、各地で行われてきました。日本ウミガメ協議会では、それらの保護効果について否定的に考えています。その理由は以下のとおりです。


1)これまで知られている人工孵化による孵化率は、ほとんどが50%程度かそれ以下であり、明らかに自然下での孵化率を下回っているのが現状です。人工孵化による孵化率が、自然状態での孵化率を保証しない以上、人工孵化はむしろ逆効果であり、その検証は最低限必要であるはずですが、それさえもほとんどなされておらず、そのような状況下での人工孵化は行うべきではないと考えています。

2)ウミガメは卵の時期に過ごす温度環境によって性が決まります(→LinkIcon生物学ウミガメの生物学 温度性決定)が、卵を人工孵化場や砂浜の別の場所に移植することによって、当然砂の中の温度をはじめとする環境は変わりますので、性の決定だけでなく、発生や孵化後の成長に与える影響が心配されます。

3)人工下で孵化した子ガメは、放流まで飼育することになりますが、水族館や研究施設以外で良好な飼育環境を準備するのは難しく、子ガメが死亡したり、病気になったりしてしまう可能性が高いと思われます。なんとか放流にこぎつけても、その後の生残や成長に対する影響も心配されます。→子ガメの飼育について

4)人工孵化個体の放流の多くは、教育目的の放流会と称して日中行われていますが、夜間の自然孵化に比べて、子ガメが捕食される確率が高くなると考えられます。

5)孵化直後の活発に前肢をバタバタさせる(→フレンジー)時期を逃すと、遊泳力が低下し、速やかに沖に出ることができなくなってしまいます。

6)砂から脱出したカメは海を目指して一目散に移動しますが、最近の研究ではその過程で移動している方角と磁場との関係を学習すると言われています。しかし、人の手によって放流した場合、その学習を正常に行っていないために、沖に向かってうまく泳げない可能性があります。

参考資料
"Orientation and Navigation of Hatchling Sea Turtles."
by Dr. Kenneth J. Lohmann (Univ. of North Carolina)
「子ガメの定位能力と航海」
ケネス・ローマン(ノースカロライナ大学)

 アメリカ合衆国フロリダ州で生まれたアカウミガメの孵化幼体は、砂中の巣穴から地表へ脱出すると直ちに海へ向かって駆けて行き、生まれた砂浜を離れて沖に向かって回遊していく。その後、ウミガメはNorth Atlantic Gyre(サルガッソー海を囲むように北大西洋を循環する大きな流れ)にたどり着き、その循環系の中で数年間を過ごすことになる。この間、多くの個体は大西洋を横断して東側まで達し、その後成長して北米大陸沿岸へ戻ってくる。私たちがこの10年間の研究で焦点を当ててきたのは、幼いウミガメが岸を離れて沖合へと回遊していく際に一体どのようにして進むべき方向を知るのかという問題と、成長していく過程でそのNorth Atlantic Gyreから外れないでそこに留まっているために、どのようにしているのかという問題の2つである。

 沖へ向かって回遊している間、ウミガメは定位のための手がかりになるものを、いくつも次々と切り替えながら利用していることが明らかになっている。砂浜の上では、暗くてより高い位置にある植生や砂丘の影から遠ざかり、明るくより低い位置にある水平線の方へ向かって這っていくことで、海を見つける。しかし、海に入った後は視覚に頼らずに、今度は波に逆らって泳ぐことで外洋への方向を確認していく。水中を泳いでいるときには、波が伝わる際に生じる一連の加速度を知覚することで、波の進行方向を知ることができる。岸に近い浅い沿岸部では波は必ず岸に向かって進むので、波に逆らって泳ぐことで確実に陸から離れて外洋へと向かうことができる。

 陸から離れて海底の深度が深くなっていくと、そのうちに波は必ずしも岸に向かって進むとは限らなくなる。そうなると、もう波は沖の方向を知る手がかりとしては使えなくなる。しかし、フロリダの砂浜から外洋へと孵化幼体を追跡してみると、波の向きが今まで進んできた方向と一致しなくなっても、さらに沖をめざし続ける。これらの結果から、孵化幼体は岸から離れた後は進むべき方向に関する情報源として、それまでの波にとって変わる何か他のものを利用しているということが考えられる。

 室内実験によって、アカウミガメとオサガメの孵化幼体は地磁気を感知することが明らかになっている。しかし、岸から離れて沖を目指す回遊に磁気コンパスが機能するには、沖合を示す磁界の向きに関して、遺伝的にプログラムされているか、或いは後天的に学習しなければならない。孵化幼体が巣穴から海へ向かうまでの間に磁界の向きを学習するのかどうか調べるための実験を行った。ウミガメを真っ暗な通路の端に置き、反対側にかすかな明かりを付けて光に向かって這っていけるようにした。孵化幼体が通路の反対側へたどり着いたところで、明かりを消して実験個体を水槽の中に移し、完全な暗闇の中でウミガメが泳げるように設定した。

 通路の中を東へ向かって歩いた個体は、結果的に東へ向かって泳ぎ、反対に西へ向かって歩いた個体は西へ向かって泳いだ。周囲の磁界の向き人為的に逆転して泳がせると、逆向きに泳いだことから、ウミガメは地磁気を感知したということをが示された。通路の中を全真っ暗闇の状態で歩かせた個体では、特に有意に定位する方向はなかった。これらの結果は、ウミガメが巣穴から脱出する時にはまだ磁界に関する指向が備わっておらず、砂浜のわずかな距離を進む間にこれを学習するという仮説を支持する。

 孵化幼体は波を手がかりとすることで、指向する磁界の向きを確定することもできる。砂浜を歩く前のアカウミガメの孵化幼体を造波装置つきの水槽に入れて紐でつなぎ、波に向かって泳げるようにした。30分間の実験の後に波を止め、実験個体のうち半分は周囲の磁界を操作しないままの環境で泳がせ、残り半分は地磁気と逆転する方向の磁界の中で泳がせた。その結果、前者のグループは、波を与えた時と同じ方向に泳ぎ続けた。しかし、後者のグループは、波を与えていた時と逆の方向へ向かって泳ぎ続けた。そして、第三のグループとして、波のない条件下で泳がせた個体は、いずれの方向へも有意な定位は行わなかった。これらの結果は、ウミガメは沖の方へ向かうための磁界に関する指向を遺伝的に獲得しているのではなく、磁界以外の環境要因に基づいてその指向を学習するということに対するもう一つの証拠である。

 これらの発見を合わせ考えると、孵化幼体は地上か水中のどちらかで、一方向を定位し続けることで、外洋への磁界の向きを学習するとことになる。自然界では、孵化幼体はより明るく、より下方に位置する水平線に向かって砂浜の上を歩いていく。したがって、ひとつ考えられることは、砂浜を歩きながらはじめに進んだ方向、或いは、陸から離れるように泳ぎながらはじめに進んだ方向が、磁気コンパスによって置き換えられるのかもしれない。このようにして、孵化幼体は波が常に岸に向かって進む沿岸部を離れた後も、更に沖へ向かって同じ方向を定位し続けるのであろう。

 要約すると、アカウミガメの孵化幼体は岸から離れて沖へ向かって回遊していく間に、3つの別々の手がかりを用いて定位することが明らかになった。砂浜の上では、より明るく、より下方に位置する水平線に向かう。海に入ると、はじめのうちは波に逆らって泳ぐ。砂浜を歩いている間と沖に向かって泳いでいる間に、海・沖合への定位を地磁気コンパスへと切り替える。このように、定位の為の情報源を切り替えていくことにより、波が必ずしも岸に向かうとは限らない海域に達した後も、なお岸を離れるコースを維持し続けることができるようである。

 岸を離れて沖へ向かう回遊は、何年間にもわたって続く大回遊のほんの始まりの部分に過ぎない。アカウミガメの孵化幼体にとって、外洋域に留まるように定位しながら動くことは、成長の点から有利に作用するかもしれない。例えば、メキシコ湾流の暖かい水は、若いウミガメにとって好ましい環境を与えるが、North Atlantic Gyreの北限をそれてしまえば致命的となる。North Atlantic Gyreの北端がポルトガルに近づく付近で、西よりの海流は二手に分かれる。そのうち北側へ向かう支流は、グレートブリテン島(イギリス本島)を通過すると急激に水温が低下する。この支流に乗って北へ流された個体は、直ぐに凍え死んでしまう。同様に、North Atlantic Gyreの南端部分でそこから更に南へ向かって挑んだ個体は、南大西洋海流系の中へ流されていってしまい、本来の分布域から遠く離れてしまう危険がある。したがって、North Atlantic Gyreの北限と南限でそれを感知して適切な方向へ定位するという能力には、十分に適応的意義がある。

 地磁気を利用することで、地球上における位置を知ることができる。地磁気のいくつかの成分は、地球上の位置によって異なり、これは予測が可能である。したがって、もしウミガメが位置によって変化するこれらの地磁気の成分を探知できるとしたら、その能力によって、North Atlantic Gyreの中に留まっていられるようになるであろう。

 特に緯度と対応して顕著に変化する地磁気の成分は、伏角(磁力線と水平面がなす角)である。地表のどの位置にいても、磁力線は地表とある一定の角度をもって交わり、その角度は地磁気の赤道で0度となり(磁力線が地面と平行である)、磁極点では90度となる。したがって、伏角の変化を感知できる動物は、自分の位置についてその概ねの緯度がわかるのである。

 アカウミガメが回遊ルート中のいくつかの地点で観測される磁界の違いを区別できるかどうか確かめるための実験を行った。水槽の周囲をコイルで囲み、コンピューター制御により北大西洋のあらゆる地点の磁界を再現できる装置を作り、その中に孵化幼体を入れた。三カ所の海域における磁界を再現してその中に孵化幼体を曝したところ、いずれも場合の反応も、それが実際に自然界で起こった場合には、実験個体をNorth Atlantic Gyreの中に留めるようにする方向への定位であった。これらの結果から、若いウミガメは地磁気を道しるべとして有効に活用しうるということと、孵化幼体は、普通なら海に入ってから後数週間、数ヶ月後まで遭遇しないはずの磁界成分に対しても、巣穴から脱出した時点ですでに反応するようにプログラムされているということが示唆される。このようなプログラムされた一連の反応は、若いウミガメがはじめての大回遊をする際の進行方向誘導システムなのかもしれない。

(翻訳:松沢慶将)

第10回日本ウミガメ会議(御前崎会議)講演要旨,うみがめニュースレター,2000,No,43,7-9,

保護対策について

多くの問題点を回避するためには、自然状態で孵化を待つのが好ましいと思われますが、以下のような場合には、卵の移植と人工孵化、子ガメの放流会を行うことにも、意義があると考えています。

1)砂の性質などによって砂中温度が高かったり、乾燥したり、逆に伏流水の影響などで温度が低かったり、湿度が高かったり、成長の旺盛な植生に被覆されるなど、砂浜の環境特性によって、自然孵化・脱出率が異常に低い場合。

2)砂浜が海水浴場であるなど人間活動の影響が大きく、産卵巣上を踏み固められてしまうなど、孵化が期待できない場合。ただし、可能であれば柵で囲うなどして、孵化・脱出まで見守ることが望ましいと思います。

3)台風の接近などで、卵が流失してしまう可能性が高い場合。

4)汀線近くに産卵が行われ、満潮時に冠水する可能性が高い場合

5)卵や子ガメを観察したい場合。ただし、自治体によって卵の採取には法的な規制がかかっている場合があるので、注意が必要です。→LinkIcon法令

以上のような場合に、卵の移植、人工孵化、子ガメの放流を行う際には、以下の点に注意が必要です。

卵の移植について

fukachoua.jpg卵を移植する場合には、その時期がその後の発生や孵化率に重大な影響を与えます。移植する時期としては産卵後24時間以内か、その期間を逃したらできるだけ孵化直前の方が安全です。孵化は6月に産卵したもので約60日、7月に産卵したものはそれより早くなるので、それを目安にするといいでしょう。産卵後2日以降10日位の移動が最も危険をともないます。その理由は胚発生において胚膜が卵殻の内側に発達してくるのですが、その発達過程に動かすことによって、その正常な発達を妨げるからと考えられています。また、移動の際には、卵の天地が移動しないように、柔らかい鉛筆で卵の上に印をつけるようにするといいでしょう。ただし、台風の接近などの場合には、バケツなどへの一時避難的移植、冠水が予想される場合には、同じ砂浜のウミガメが産卵するような場所への移植にとどめるべきと考えます。また、観察のための人工孵化に供する場合は、高い孵化率が望めないことを考慮して、一部の採卵にとどめてそれらを大事に観察するように努めるべきと考えます。

卵の管理について

広大な屋外の人工孵化場で大量の卵を管理し、一定の環境を維持するためには、大変な労力が必要となります。むしろ、室内で少数の卵をバケツやプラスチックケースに収容し、また衛生面を考えて自然の砂ではなく水苔やグラスウールの中で管理する方が、作業も容易となり環境を維持しやすく、高い孵化率を確保することができます。卵を管理する上では、温度と湿度に最も気をつけなければなりません。人工孵化における孵化率低下の原因は、ほとんど高温によるものと考えられています。温度を適正に保つためには、日除けの設置や涼しい場所での管理に努めましょう。湿度を保つためには、水をまくというよりは、容器ごと水に浸すか浮かべるなどして、常に一定の湿度環境に置かれるよう工夫した方がいいようです。

子ガメの飼育について

子ガメを飼育する上では、飼育水を清浄に保つことが最も重要です。特に眼球の白濁をよく起こしますので、浮きっぱなしの子ガメにとっては水表面をきれいに保つことに注意が必要です。子ガメは様々な病気にもかかりやすいようですが、詳しいことは分かっていません。体内にガスが発生して水面上に大きく浮き上がって、潜れなくなってしまうこともあります。平衡感覚を失って、一方向にグルグル回り続ける個体も出てきます。そのような場合には、抗生物質の投与など医学的な処置が必要になってきます。
孵化直後は餌を食べませんが、2・3日後から少しずつ餌を与えて、様子を見ます。魚肉のミンチなども食べますが、水を汚しますし、栄養のバランスが心配なので、配合飼料の方がいいでしょう。特にこの時期の栄養状態は、その後の成長や将来の器官の発達に影響する可能性があるので、注意が必要です。なるべく、少量を数回に分けて与えるようにしましょう。

注意:日本国内で個人によるウミガメ類の飼育・販売・譲渡は許可されていません。

子ガメの放流について

kogame_oyogu1.jpg以上のように子ガメの飼育は難しい上に、この時期は将来に大きく影響する大事な時期ですから、孵化したら出来るだけ早い時期の日没後に放流するべきでしょう。
人工孵化した子ガメをある程度の大きさまで飼育して放流すること(→ヘッドスターティング)も行われていますが、このことに関してもいくつか問題点が挙げられます。
メダカやホタルの放流が遺伝子頻度の攪乱として問題視されていますが、海洋におけるウミガメの遺伝子頻度に対する影響などの研究は進んでおらず、その危険性は未だ不明です。また、遺伝子の多様性の低下が、種の存続にとっての脅威であるかも未だ不明です。しかし、ヘッドスタートの放流個体が、冬の日本海で衰弱または死亡して漂着したり、湾内で混獲死したりした例がいくつか知られており、野生個体と異なった回遊行動を示しているのではないかと推測されています。このような状況下で、ヘッドスタート個体の放流が、資源量回復や種の保全にとって有効であるかは未だ疑問であり、積極的に自然保護を謳うことはできないと考えています。