活動紹介

調査・研究

産卵地での調査

ウミガメ類のように絶滅が危惧されている動物では、生息数あるいは個体群規模の動向を常に把握・監視していくことがとても重要で不可欠な作業になります。しかし、ウミガメは広い海をあちこちと回遊して生活していますから、それをいちいち追いかけて直接目視で数えることはまず不可能です。これに対して、産卵の時は必ず砂浜に上陸して来ますし、これを数えることは比較的容易です。そこで、産卵回数や上陸回数は個体群規模の目安として最適であり、これを調査することはウミガメを調べる上で必須なのです。特にアカウミガメに関しては、わが国は北太平洋における唯一の産卵地であり、日本全体における産卵回数の推移は、世界的な関心事でもあるのです。
日本では八重山諸島から福島県までの主に太平洋側に産卵地が散在し、それぞれの地域で個人や団体が独自に産卵痕跡調査を継続してきました。特に徳島県の日和佐と蒲生田における調査は1950年代にはじまり、世界でも最も長く継続されている調査です。しかし、残念ながら一部を除き情報は公表されず、産卵地の分布や全国での産卵回数などの情報は長年不明のままでした。そこで、日本ウミガメ協議会は1990年に全国ウミガメ産卵アンケート調査を実施し、これを集計して全体像の把握を試み、以後、毎年同調査を継続させてきました。
その結果、以下のことが明らかになってきました。
・ 国内におけるアカウミガメの産卵は西日本の太平洋側に集中し、鹿児島県だけで全体の6割を占める。
・ アカウミガメの産卵回数は、1990-91年から97-98年にかけて全国的に激減した。
・ その後は低いレベルのまま推移したが、2002年に屋久島で爆発的に増加した。
・ ここ最近、産卵のために日本の砂浜を訪れるメスのアカウミガメは、1500~2000個体ほどである。

日本ウミガメ協議会では、各地の調査結果を埋没させることのないように、また実際に調査を行った方の名前を記録に残すために、資料集の出版・公表もしています。

 
 
 
標識放流調査

ウミガメは生活史のほとんどが海中であるため、その行動を追跡することはとてもむずかしいものです。そこで、産卵のために上陸した個体や漁業によって混獲された個体に標識をつけることによって、次にどこかで再び捕獲されたときにその番号が分かれば、どのくらいの範囲を移動している、どのくらい成長したなど色々な情報がわかります。これまで全国各地の多くの方々に協力していただき、現在までに約11万個の標識を使用しました。

 
 
漂着死体の調査

日本各地の海岸にウミガメが漂着します。その漂着した個体の場所、状況、種、胃内容物などを調べることで普段見ることの出来ないウミガメの生活史の一端を知ることができます。例えば生活域、食性、形態の違い、DNAからの遺伝的な違いなどです。しかし、日本は広くなかなか全国をくまなく調べることができません。そこで広くサーファーやダイバーなど海に関係する多くの方々へ情報提供のお願いして情報を集めています。2004年からは情報をいただけるように連絡先が書かれた、携帯電話に貼り付けるステッカーを配布しています。

人工衛星を用いた回遊経路の追跡

ウミガメの回遊生態を把握することは長年困難とされてきました。一般的に動物の移動を調べる方法として標識放流がありますが、これでは放流地点と再捕地点が分かるだけですし、あくまで漁業による再捕と漁業者の善意に強く依存しているため、回遊について理解するには限界があります。これに対して、「アルゴスシステム」と呼ばれる極軌道衛星と電波発信機を用いた追跡システムでは、ウミガメが海面浮上した際の位置が随時分かり、バッテリーの寿命が来るか発信器が外れるまでの間、追跡を続けることができます。
日本ウミガメ協議会は、産卵を終えたアカウミガメや、定置網などで捕獲されたアカウミガメ22個体に電波発信機を装着して追跡してきました。その結果、概して、体の大きさによって異なる回遊パターンを示すことが分かってきました。つまり、甲長800mm以下の比較的小さな個体は黒潮親潮混合域や黒潮続流域へ回遊していき、甲長833mm以上の比較的大きな個体は東シナ海へ向かい、そこで特定の海域に固執し、その中間の大きさの個体は、黒潮の南側を時計回りに周回しながら、時折日本列島に接岸するといった具合です。

 
 
 
室戸・野間池の定置網におけるウミガメ調査

日本沿岸には数多くの定置網組合が操業しています。そこでは目的とする魚種のほかに、ウミガメ類が数多く混獲されることが近年の研究で明らかとなってきました。そこで当会では、定置網漁師さんの協力を得て、日本沿岸に回遊するウミガメ類の生態を解明するとともに、漁業者に対する環境保全への取り組みを推進していく事業を行っています。現在では高知県室戸岬周辺で操業する定置網と、鹿児島県野間池で操業する定置網と共同で調査を開始しています。

プラスチックタグの廃止について

2021/2/1
 2020年12月5日に開かれた日本ウミガメ協議会の理事会において、プラスチック製の標識を廃止することが決定されましたのでお知らせいたします。
 当会が発足する以前、ウミガメに装着する標識は各調査団体が独自に作っていました。これでは同じ番号の標識が複数存在するため、再発見された場合に誰が放流したウミガメかわからない状況でした。そこで、1990年に開催された第一回日本ウミガメ会議において、標識番号の統一が提唱されました。加えて、試験的な期間を持ちつつ、主にプラスチック製とインコネル製の標識を利用することになりました(亀崎・菅沼, 1991)。これ以降、30年にわたり日本ウミガメ協議会事務局が標識を管理し、主にこの2タイプの標識が使われています。
 
 この度、プラスチック製を廃止する決定に至った理由は、下記の3つです。
1.プラスチック製の標識は網に絡まりやすく、混獲や投棄された漁網にウミガメが絡まる原因とされている
2.プラスチックによる海洋汚染の問題が世界的に注目を集め始めている
3.プラスチックタグを生産していたダルトン社が国外への生産を中止し、入手が難しくなった
 
 1については以前から懸念されており、プラスチックタグを廃止するべき、という話も度々ありました。世界的にみても、現在まで利用しているのは日本ぐらいでした。一方で、数字に基づく根拠がなかったこと、プラスチック製タグは装着ミスが少なく何よりも目立つため、一般からも再発見の情報が得やすいメリットがありました。実際に、インコネルタグは小さいため、ウミガメに触れてようやく気付くこともあります。しかしながら、皆様もご存知のように、海洋プラスチックの問題が急速に注目を集め、そして、入手が困難になったことから、時勢的にみて廃止するタイミングである、という結論に至りました。
 
 現在、皆様の手元にあるプラスチック製の標識は大阪事務局にご返送ください。代わりにインコネルタグを配布いたします。また、プラスチックのように目立ち、かつ、コストの低い新しい標識も探していきます。 
 皆様のご理解をどうか宜しくお願い致します。
 

左がプラスチック製、右がインコネル製のタグ。
プラスチック製は組み合わせると隙間ができるため、その隙間に漁網に入り込むことがあった。