ウミガメについて知りたい

ウミガメの教科書(初級編)

孵化の支援について

 日本ウミガメ協議会は、ウミガメの卵を移植したり子ガメを人の手を経て不自然に放流したりすることが、保護の観点からは逆効果になりかねないとする「国際自然保護連合 種の保存員会Marine Turtle Specialist Group」の懸念を共有しており、それを国内の関係者に広く周知する努力をしています。その一方で、砂浜や巣によっては、移植しなければ確実に水没して全滅する場所があることも認識しています。そのようなところでは、全滅するくらいなら移植をするのもいたしかたないという考え方があることも理解しております。
 
1)砂の性質などによって砂中温度が高かったり、乾燥したり、逆に伏流水の影響などで温度が低かったり、湿度が高かったり、成長の旺盛な植生に被覆されるなど、砂浜の環境特性によって、自然孵化・脱出率が異常に低い場合

2)砂浜が海水浴場であるなど人間活動の影響が大きく、産卵巣上を踏み固められてしまうなど、孵化が期待できない場合。ただし、可能であれば柵で囲うなどして、孵化・脱出まで見守ることが望ましい

3)台風の接近などで、卵が流失してしまう可能性が高い場合

4)汀線近くに産卵が行われ、満潮時に冠水する可能性が高い場合

5)卵や子ガメを観察したい場合
(ただし、自治体によって卵の採取には法的な規制がかかっている場合があるので、注意が必要)
 
以上のような場合に、卵の移植、人工孵化、子ガメの放流を行う際には、以下の点に注意が必要です。
 
 

卵を移植する場合には、その時期がその後の発生や孵化率に重大な影響を与えます。移植する時期としては産卵後24時間以内か、その期間を逃したらできるだけ孵化直前の方が安全です。孵化は6月に産卵したもので約60日、7月に産卵したものはそれより早くなるので、それを目安にするといいでしょう。産卵後2日以降10日位の移動が最も危険をともないます。その理由は胚発生において胚膜が卵殻の内側に発達してくるのですが、その発達過程に動かすことによって、その正常な発達を妨げるからと考えられています。また、移動の際には、卵の天地が移動しないように、柔らかい鉛筆で卵の上に印をつけるようにするといいでしょう。ただし、台風の接近などの場合には、バケツなどへの一時避難的移植、冠水が予想される場合には、同じ砂浜のウミガメが産卵するような場所への移植にとどめるべきと考えます。また、観察のための人工孵化に供する場合は、高い孵化率が望めないことを考慮して、一部の採卵にとどめてそれらを大事に観察するように努めるべきと考えます。

広大な屋外の人工孵化場で大量の卵を管理し、一定の環境を維持するためには、大変な労力が必要となります。むしろ、室内で少数の卵をバケツやプラスチックケースに収容し、また衛生面を考えて自然の砂ではなく水苔やグラスウールの中で管理する方が、作業も容易となり環境を維持しやすく、高い孵化率を確保することができます。卵を管理する上では、温度と湿度に最も気をつけなければなりません。人工孵化における孵化率低下の原因は、ほとんど高温によるものと考えられています。温度を適正に保つためには、日除けの設置や涼しい場所での管理に努めましょう。湿度を保つためには、水をまくというよりは、容器ごと水に浸すか浮かべるなどして、常に一定の湿度環境に置かれるよう工夫した方がいいようです。

子ガメを飼育する上では、飼育水を清浄に保つことが最も重要です。特に眼球の白濁をよく起こしますので、浮きっぱなしの子ガメにとっては水表面をきれいに保つことに注意が必要です。子ガメは様々な病気にもかかりやすいようですが、詳しいことは分かっていません。体内にガスが発生して水面上に大きく浮き上がって、潜れなくなってしまうこともあります。平衡感覚を失って、一方向にグルグル回り続ける個体も出てきます。そのような場合には、抗生物質の投与など医学的な処置が必要になってきます。
孵化直後は餌を食べませんが、2・3日後から少しずつ餌を与えて、様子を見ます。魚肉のミンチなども食べますが、水を汚しますし、栄養のバランスが心配なので、配合飼料の方がいいでしょう。特にこの時期の栄養状態は、その後の成長や将来の器官の発達に影響する可能性があるので、注意が必要です。なるべく、少量を数回に分けて与えるようにしましょう。
注意:日本国内で個人によるウミガメ類の飼育・販売・譲渡は許可されていません。

 

以上のように子ガメの飼育は難しい上に、この時期は将来に大きく影響する大事な時期ですから、孵化したら出来るだけ早い時期の日没後に放流するべきでしょう。
人工孵化した子ガメをある程度の大きさまで飼育して放流すること(→ヘッドスターティング)も行われていますが、このことに関してもいくつか問題点が挙げられます。
メダカやホタルの放流が遺伝子頻度の攪乱として問題視されていますが、海洋におけるウミガメの遺伝子頻度に対する影響などの研究は進んでおらず、その危険性は未だ不明です。また、遺伝子の多様性の低下が、種の存続にとっての脅威であるかも未だ不明です。しかし、ヘッドスタートの放流個体が、冬の日本海で衰弱または死亡して漂着したり、湾内で混獲死したりした例がいくつか知られており、野生個体と異なった回遊行動を示しているのではないかと推測されています。このような状況下で、ヘッドスタート個体の放流が、資源量回復や種の保全にとって有効であるかは未だ疑問であり、積極的に自然保護を謳うことはできないと考えています。