ウミガメについて知りたい

ウミガメの教科書(上級編)

 

遺伝子を使った研究

 他の動物と同様に、ウミガメ類でもその生態を理解する上で、遺伝子解析は有効な手段となっています。例えば、ミトコンドリアという細胞内小器官の中にある遺伝子のうち、特に変異に富んでいる領域について注目すると、特定の地域集団に特徴的なパターンが見つかることがあります。北太平洋のアカウミガメは日本で産卵する個体群とオーストラリアで産卵する個体群がありますが、ミトコンドリアの遺伝子を調べると両者を区別することができます。カリフォルニア半島周辺では甲羅の長さで40~55cmほどのアカウミガメが多く見つかりますが、同じ方法で調べてみると、これらは日本生まれであることが分かってきました。

 また、遺伝子解析による親子判別の手法を応用することで、ウミガメの繁殖システムについて明らかになってきました。ウミガメは一度に100個前後の卵を産みますが、そこから生まれる子ガメは同じ母親から生まれても、もしかすると父親は別々かも知れません。メスとその個体が産んだ卵から生まれた子ガメ達の遺伝子を分析して、子ガメ達の父親が少なくとも何個体いたかを調べるというやり方です。その結果、多くの種や個体群で複数父系であることが確認されています。以前から、1組の交尾中の雌雄に、複数のオスが群がったり、のし掛かったりする光景がダイバー達によって目撃されてきましたが、遺伝子解析の結果はこれと一致したわけです。