ウミガメについて知りたい

ウミガメの教科書(上級編)

 

カメの涙

 

アオウミガメの涙


 砂浜に上陸したウミガメは目をうるませています。お産の苦しさから泣いているようにも見え、なんとも同情を誘うものです。しかし、この涙のような液体の正体は、塩類腺という器官から出てくる塩水で、体の中の余分な塩分が濾しだされたものなのです。
 ウミガメが餌にしている無脊椎動物や海草、海藻は、海水と同様にウミガメの体液の約3倍の塩分濃度があります。そこでウミガメは餌と一緒に余計な塩分まで取ってしまいます。脊椎動物の体の中では塩分濃度が一定に保たれていて、濃度が高くなりすぎたり低くなりすぎたりすると体を構成している細胞が壊れてしまうので、この余計な塩分を排泄しなければなりません。ウミガメはこの塩分を濾し出すための特殊な器官を発達させました。それが塩類腺です。ここから海水の約2倍の濃さの塩水を排泄することができます。ウミガメの塩類腺は涙腺から派生したもので、目の後ろ側に位置します。頭蓋骨の中でかなり大きな空間を占めており、オサガメの場合は脳の約2倍もの大きさになります。塩類腺の分泌管の開口部は目尻にあるために、その分泌物が涙のように見えるわけです。他にも塩類腺が備わっている動物がいますが、別の分泌腺から派生しており、ウミヘビやワニの場合には涙ではなくてよだれに、ウミイグアナや海鳥の場合には鼻水になってしまいます。もしウミガメがよだれや鼻水を垂らしながら産卵したなら、これほどまでに愛されなかったのではないでしょうか。自然は時々粋な計らいをするものです。